第2章 はじまり
春。
今日は新しい生活が始まる日。
「遅刻するよ!早く!」
割と綺麗で広めのこのマンションの部屋は、私のお気に入りだ。
部屋が二つあり、一つは寝室、一つは勉強用。
リビングは黒の大きめのソファと、ガラスの収納棚付きのテーブルがあり、少しオシャレにしている。
そしてキッチンはカウンター式でこれがまたお気に入りだ。
「なまえさん待ってよー」
そのお気に入りの部屋に、3月からペットという名の住人が増えた。
「はい黄瀬、お手」
黄瀬涼太という犬。犬種はゴールデンレトリーバー。
「犬じゃないっス!」
「あら、違った?」
「犬は喋らないっスよ!」
「よく出来た犬かと思った」
…犬ではないらしい。
まぁ、冗談はここまでにしておいて。
コイツはれっきとした人間であって、モデルなんてのもしている。
「んじゃ行くよー」
「はい!」
「弁当持った?」
「なまえさんの愛妻弁当ならちゃんと持ったっス!」
「愛妻弁当じゃねーし」
「ツレねーっス」
そんなコントみたいなやり取りをして、今日も元気に出掛ける。(主に黄瀬が)
黄瀬は中学からの仲であるが、別に付き合ってるわけではない。
一緒の部屋に住んでいるのは、黄瀬が私と同じ高校に通うことになり、費用とか分けた方が楽だからという理由からだ。
部屋はどれも共同だが、別に何の問題もない。
寝室はちょっと贅沢してダブルベッドを買っていたから、随分と余裕があるのだ。
ナイス、私。
「…ねぇ。やっぱり別々に行かない?」
「えー、嫌っスよ。一人だと女の子に捕まっちゃうもん」
「私は目線で既に捕まってるよ」
「オレが守るっス」
「さっすが番犬」
「だから犬じゃないってば!」
学校までの道はもちろんいろんな人が歩いている。
ちなみに私達が通う海常高校はスポーツ名門校としても知れている為、それだけでもかなり視線が集まる。
それなのに、今私の隣には黄瀬涼太。モデルの黄瀬涼太がいる。
女子の視線が本当痛い。
「あーもー、ウザったい!校門までだからね!」
「えー…」
「アンタは入学式で講堂に行かなきゃだし、私は2年だから校舎なの!」
「仕方ないなぁ…。終わったら教室迎えに行くっスね」
「絶対来んな」
そうして私達は校門で別れて、私はクラス表を見に下駄箱へ行った。