第3章 第一章三部
「おう晴輝、遅かったな。
──早くこっちに来い、おもしろいもんが見れるぞ」
いち早く俺に気付いた高松さんは、口角を吊り上げて俺を呼ぶ。
「……はい」
力の入っていない声で返事をした俺は、乱れた息を調えゆっくりと歩く。
“行くな行くな”と、叫び続ける心。自ら泥沼へとはまって行く俺を、心の中に住む何者かが引き止める。
けれど、俺は歩みを止めなかった。
今さら──だ。死ぬその瞬間を見ていて、尚且つ埋めようとした事実まであるというのに、今さら何が恐いというのだ。
恭輔(やつ)の死を一番に喜んでいたのは、間違えなく俺自身。それなのに、現実から目を背けようとしている自分の思考が、ちゃんちゃら可笑しくて仕方ない。
意を決して彼らの元へ行けば、煙の臭いがよりいっそう強くなった。
「これは、俺に恥を掻かせた罰だ」
そう言った高松さんが、焼却炉を指差す。彼が差した先へゆっくりと視線を移せば、黒い手のようなものが顔を覗かせていた。
「ひっ──」
悲鳴を上げそうになる口を押さえ、必死に堪える。
今俺が声を上げてしまったら、間違えなく太一は様子を見にここへ来る。
それだけはどうしても避けたい。
だから俺は、出かけた声を無理矢理喉の奥に詰め込んだ。