第3章 第一章三部
事務所に近い所にある山道に置かれたワンボックスカーまで、誰にも見付からないよう、静かに携行缶を運ぶ。
人通りの少ない山道だからこそ、誰かに顔を見られる心配はない。そのおかげで、安心して運ぶことが出来た。
「ハルってルパンじゃね?」
「は? なんで?」
「だって、盗みのプロじゃん」
懐中電灯で道を照らす太一が、突然意味不明な事を口走った。
上手く盗めた事もあってか、太一は少し興奮している。
言っていることの意味は分からなくもないが、さすがに『ルパン』は無い。
そもそも、俺と大泥棒のルパンとでは月とすっぽん。盗む物の規模が明らかに違いすぎる。
「急に何言ってんだよ。プロも何も大したもの盗んでねえし。
──つうか、ルパンはどう考えても“まさ君”だろ。マジ、プロ並みにすげえし」
「ああ、そういやそうだった」
首を振って否定すると、俺の言葉に納得した太一がうんうんと頷いた。
まさ君とは、俺より二つ上の中学時代の先輩。良平君と同級で、本名は山内正也(やまうちまさや)。今年十八歳になる彼は、背が小さく老け顔の為、仲間から“オヤジ”と呼ばれている。
そんな彼だが、盗みに関してはプロ以上の腕前。段 ボール数箱分の商品を、店員や客にもバレずに盗むなど朝飯前。『お金を出して買う』などという常識を持っていない彼は、万引きGメンにすら恐れられている程だ。