第3章 第一章三部
しゅぽ……しゅぽ……しゅぽ……
人の気配を感じ無い真っ暗な土木建設事務所の駐車場。無造作に置かれた2トントラックのガソリンを、誰にも見付からないように隠れて抜き盗る。
道具は給油ポンプとマイナスドライバー。マイナスドライバーでこじ開けた給油口にポンプを差し込み、吸い上げたガソリンを専用の携行缶にリズム良く流していく。
もちろん、指紋が付かないような工夫は施してある。だから、証拠が残ることはまず無い。
この手の作業は朝飯前。不景気で燃料代が馬鹿高い今、俺達のような貧乏学生には自分の単車に燃料を入れる金など無いに等しい。だから、毎回こうしてガソリンを抜いている。
「取れたか?」
見張り役の太一が、小声で訊いた。
「ああ」
小さく返事をした後、満タンになった携行缶の蓋を閉め、給油口を元の状態に戻す。
たいした量は盗っていないので、たぶん持ち主に気付かれる事は無いだろう。それは不確かな事だが、バレない自信はあった。