第1章 第一章 一部
例の廃墟を出て一時間強。先程から、俺の携帯は鳴りっぱなしだ。
掛けてきた相手が誰なのか、携帯を見なくてもすぐに分かる。
──絶対に高松さんだ。
「やべえよ。高松さん、キレてるって──」
缶ビールや菓子類が入った袋を抱えた太一が、蚊の鳴くような声で言った。太一の歯がガチガチと音を立てて震えている。
これから自分の身に降りかかるであろう出来事を想像すると、俺も他人事ではない。高松さんを怒らせたら最後。もう二度と朝日が拝めなくなる可能性だってあり得る。
「もしもし」
俺は出来るだけ高松さんを刺激しないよう、彼に諂(へつら)うような声で電話に出た。
“てめえ、何シカトこいてんだ!? ワンコールで出ろや!!”
その瞬間、鼓膜を突き破るような怒鳴り声が受話口から響き渡る。しかし、音が割れていて声が上手く聞き取れない。