第1章 第一章 一部
それから数分後、太一が来た。奴は先に逃げてしまったことを気にしているようで、何度も謝ってくる。
「気にすんな」
俺は太一を責めるような真似はせず、“大丈夫だ”と、幼い子のように無邪気笑って見せる。
「……ああ」
小さな声で答えた太一は、控え目な笑顔を見せた。
その表情からして、まだ太一が気にしている事は充分すぎるほど分かる。
でも俺は、変に奴を慰めるような真似はせず、別の話に切り替えた。
「おい、俺の事バレてねえだろうな?」
くだらない話で盛り上がっていた最中、ようやく恭輔が来た。
俺は、頻りに自分のことばかり気にしている恭輔の態度が気に入らず、
「しるかよ」
わざと冷たく答える。
「なんだよそれ」
恭介の方も俺の態度が気に入らなかったらしく、ムッとした表情で俺を見ていた。
しかし、喧嘩にまで発展するような事はなかった。なぜなら、もっと大変なことが俺達を待ち構えているからだ。