第14章 若輩もの
年下の男の子がとりわけ好きだったわけではない。むしろ、年下の男の子を好きになったのは椎が初めてだ。
自分がこんなに駄々っ子に弱かったとは驚きだ。いや、駄々っ子というよりは椎に弱いのか。
『そんなこと言っても…私は今日休みだけど、椎はちゃんとバイト行かなきゃだめでしょ?』
「俺も今日休みにしてもらえばよかった…。」
椎が私の腹部に顔を埋めて話すものだから、違和感を感じずにはいられない。
しかし、それすらも愛おしいと思ってしまうのだから重症である。
基本的に休みが不定期な私と彼では、なかなか休みが合わない。
『ほら、椎はもう子どもじゃないんでしょ?だったらわがまま言わない。』
「ぅっ…。」
彼は低く声を漏らす。ジトッとした目で一瞥し、立ち上がる。そして、着替えるために脱衣所へと向かう…
____________ぼふっ
『ちょっ…!』
と思われた椎がソファに倒れこむように抱きついてきた。おかげで背もたれと椎に圧迫されて呼吸が苦しい。
「んーあとちょっと。」
時計の針は刻々と時間を刻んでいる。首に当たる彼の息はくすぐったいが、頬を掠める彼の髪は心地よい。
軽く背を撫でてやると首元に頭をすり寄せてくるものだからかわいくて仕方がない。
(やっぱり…犬みたい。)
こんなことを言ったらどんな反応を示すのだろうと想像して頬が緩む。
「よし、ちょっとだけ…やる気出た。」
『ふふふっ…何よちょっとだけって』
首元に頭を埋めた状態で彼が言う。
「ちょっとはちょっとだもん…やっぱり絵夢と一緒にいたい気持ちの方が…大きい。」
さっきまで甘えていたのにいきなり、こうやって私の心をかき乱すのが彼のずるいところだ。
無意識なんだろうが私だってたまには逆の立場になってみたい。勝手な願望を叶えるべく彼の普段の言動を真似てみる。
『んー私も椎と離れたく…ない、なぁ。』
自分で言っておいてなんだが、これは結構恥ずかしい。いつもなら諭す私がこんなことを言うなんて。おかげで語尾が小さくなってしまった。
(……あれ?)
想像していた彼からの反応はない。少し視線をずらして、顔にかかった彼の髪をそっとよけてやる。
『わっ…』
真っ赤だ。彼の頬が真っ赤に染まっている。瞼を閉じているためその瞳の赤は見ることができないが、頬はきれいに染まっている。