第14章 若輩もの
____________ぐっ
『わっ!?…びっくりした。』
身をかがめた瞬間、椎が振り返り私の腰へと抱きついてきた。
ソファに座っている私より、彼の頭は下の位置にある。彼がお腹に頭を沈めてくるため、くすぐったくて仕方がない。
『椎っ、くすぐったい!』
「ん…。」
それっきり動かなくなった椎。朝食を食べている時は別段変わったことは無かったと思うが、何かあったのだろうか。少し伸びた前髪を撫でてみると椎が身をよじる。
『どーしたの?』
「…絵夢は…もっと大人の男が好きなの…?」
私に顔をすり寄せながらポツリと言った。明後日の方向からの質問に頭の中は疑問符で埋め尽くされる。
何かそのようなことを漂わせる発言を私はしただろうか。
『いや…別にそんなこと…』
そこでふと目の前のテーブルに視線をやる。そこには、先ほどまで開いていた雑誌が置いてある。
特集ページの見出し『大人の男性の魅力に迫る』という文字が目に入る。
(もしかして…。)
おそらく彼もテーブル上のこの文字を見たのだろう。理由がわかった瞬間、思わず笑い声を漏らす。
私は特別好きなタイプなんていうものもなく、ましてや年齢など気にも留めないタチだ。
「なっ…なんで笑うの!!」
『ご、ごめんっ…でも、ふふっ……おかしくて…。』
頬を赤く染めた彼が顔を上げる。その仕草がまた愛しくて、口元が緩んでしまう。
そのページを開いていたのはただの暇つぶしだったが、現状を考えると少し前の自分を褒めてやりたくなる。
「いいよ…俺だって、もう少しすれば…」
『椎はそのまんまでいいよ、かわいくて。』
「かわいいって言われても嬉しくない…。」
ムッとした顔で見上げてくる彼の姿には、やはり母性本能をくすぐるものがある。この表情に私は毎度絆されている。
もう一度彼の頭を撫でようと手を伸ばすもその試みは彼の手によって遮られる。
「絵夢は…頭撫でるの禁止。」
そう言って、その長い腕を伸ばして私の頭をかき乱す。私の髪が乱れるも、彼は手を止めない。
私はなんとかそれをやめさせようと全く別の話題を振る。
『ほら!椎、今日バイトでしょ!?もうそろそろ準備しないと!!』
「んー…行きたくない。」
そう言ってまた私の腹部に手を回す。どうして彼はこうも私のツボをついてくるのか。