第13章 一点もの
未だに流れ続けるきれいな涙。しかし、見上げた彼の顔はいつか見た悲しい泣き顔ではなく、いつもと同じ優しい微笑みを私に向けていた。
「俺も…あなたと一緒にいたい。絵夢と一緒に暮らしていたい。一緒にごはん食べて、一緒に眠りたい。」
『…っ!』
「絵夢といると…胸がぎゅーってなるけど、側にいないのはもっと苦しい。」
予期せぬ彼の言葉に目を丸くする。彼につかまれている肩は熱い。
思わず泣きそうになったが、なんとか大人の意地を見せようと涙で濡れた彼の頬に手を伸ばす。
「絵夢のこと…もっと知りたいし、もっといろんな顔…見たい。それに_______________」
_______________ぎゅっ
「もっと、こうしたい。」
いたずらに笑う彼が、私の体に力を込める。幾度となくこの行為を受けたはずなのに、なぜか今に限って心臓の音がよく聞こえる。
そこはかとなく恥ずかしくなって、彼の胸に顔をうずめる。
(あっ…)
彼も同じだ。うずめた胸からは、彼がここにいるという証が感じられた。彼の涙で濡れた手を彼の背中に回す。
「…俺、もう絵夢だけいれば…いいや。」
泣き虫で、ちょっと意地っ張りで、でも優しくて。温かくて、甘くて、誰よりも安らぎをくれる。
そんな彼がやっぱり好きだ。先ほど湧いて出た気持ちが、確信に変わっていく。
けれどやっぱり口に出して伝えるのは恥ずかしくて、少しだけ強く彼を抱きしめた。
すると彼がさらに強く抱きしめ返す。それが嬉しくて彼の胸で顔を隠しながら、頬が緩むのをおさえられなかったのは私だけの秘密。