第13章 一点もの
「絵夢…どうしたの。顔、真っ赤…。」
椎に声をかけられて、自分が赤面していることに気づく。言葉を返すこともできず、同様して目を泳がせる。
「とりあえず、コレ。お前店に携帯忘れたろ。マサさんに届けてやれって言われた。」
気まずい空気を察して、隼斗くんが私の携帯を差し出す。
ずっと探していたそれを目にして、胸のつかえがとれる。
『あぁっ…!ありがとうございます。探してたんです!!』
感謝の言葉を伝えてもなお、彼の顔を見ることができない。
目を合わせては昼間の出来事が頭を離れなくなりそうだ。
「俺、今日は帰るわ。こんな時間だしな。」
『え…あ、はい。』
「そいつの存在は気になるけど、今問い詰めてもな。お前、どうせ俺のせいで気疲れしてるんだろうし。」
隼斗くんの手が頭を撫でる。顔の熱は増すばかりだが、いつもの彼の手の感触に安堵する。
私から手を離した後、彼は椎を一睨みして踵を返した。
「ごはん…冷める。」
隼斗くんが去り、静まり返った家の中、椎に手を引かれてリビングへと戻る。
私と隼斗くんとの間に何があったのか、何も聞いてこない椎に少し不安を覚える。理由はわからないが、彼には昼間の出来事を話さなければならない気がする。
『…あのね、私…』
椎に聞いてほしい。この胸の内を明かしたい。そして、共に答えを見つけ出してほしい。
震える手を握りしめ、決死の覚悟で言葉を発した。
「俺…おかず温めてくるね。」
『あっ…うん。』
しかし、リビングに戻ってから彼は私の話に耳を傾けてくれない。顔を上げる勇気のない私には、彼の表情はわからない。
しかし、声の調子からしても決して良いものではないだろう。
『今日ね、隼斗く』
「お茶…取ってくる。」
『待って、椎!話を聞いて!!』
どうしても話を聞こうとしない彼の袖をつかむ。私に背を向けて立つ彼は何も言葉を発さない。
私は一呼吸おいて、話し始めようとする。
『椎、私…』
「聞きたくない。」
『えっ…』
「聞きたくないって言ってるの。今は話しかけないで…お願い。」