第13章 一点もの
(久々に電話、してみようかな。)
携帯を探すためにカバンの中をあさる。しばらくぶりの会話を想像して思わず頬が緩む。
帰省しようと思ってもなかなか帰る機会に恵まれないのだ。連絡を取るのは少し楽しみである。
『あれ…?』
ない。確かにカバンに入れたはずの携帯が見つからない。
特に使用頻度が高いわけではないが、やはり手元にないのは不安である。店を出てから帰宅するまで触れてはいない。
(…部屋、かな……)
「ちょっ…絵夢、どこ行くのっ…ごはんできたのに。」
彼の制止の声も聞かずにリビングから廊下へ飛び出して自室へと駆け込む。
そして数少ない家具のひとつ、低めのサイドボードの引き出しをくまなく探す。
『どうしよ…ない。』
部屋をひっくり返したような状態の中、今日の記憶を辿ってみる。
仕事場ではめったに携帯を使わないためカバンに入れっぱなしだと思っていたのだが、今私のカバンに携帯は入っていない。
_______________コンコン
「絵夢入るよ?」
『椎…。』
驚いたような困ったような表情の彼が部屋に入ってくる。
様子がおかしい私を心配して来てくれたのだろう。なんとなく申し訳なくなって下を向く。
『その…携帯、なくしちゃっ_______________』
_______________ピンポーン
ドアチャイムの音に二人で息を呑む。正直今はそれどころではないのだが、まだ肌寒いこの時期に外で待たせてはいけない。腰を上げて自室の扉へと歩み寄る。
「俺が出るよ。」
彼のちょっとした気遣いが素直に嬉しい。それにしてもこんな時間に家を訪ねてくるなんていったい誰だろうか。
エプロン姿でパタパタと足音を立てる彼はまさに主婦そのものだ。
「どちら様でしょ…う、か…」
「お前…っ!!」
椎の後に続いて廊下に出た私からは、ドアの前に立っている人物の顔は見えない。
しかし、耳に届いた声はどこか聞き覚えのあるものだった。沈黙の空気が流れたのち、私は彼の背中から顔を出した。
『ええっ!!は、隼斗くん!!?』
そこにあったのはまぎれもない、隼斗くんの姿だった。
どうしてここにいるのか、椎の存在をどのように言い訳しようか、考えることはたくさんあったが、私の頭の中は昼間の出来事でいっぱいになってしまった。