第12章 可惜もの
『ね、ねぇ椎?ちゃんと見てよ、髪もちょっと弄ったんだよ?』
「…うん。ごはん冷めちゃうよ。」
『…似合ってない…?』
ここまでくると、まず根本から間違っているのではと自分の目を疑ってしまう。着飾ったはいいが、実際はひどい有様なのだろうか。
先ほどの自分への自信は贔屓目のせいか。それならば彼のこの態度にも納得がいく。
「…そんなの、俺が言わなくたって…いいでしょ。」
『…どういうこと?』
「本当に早くしないと、電車乗れなくなるよ…。」
この不毛な会話は、彼によって強制的に終了した。朝食をとっている間も、最後の言葉が頭を離れない。
(…意味、わかんない。)
部屋を出るまでは有頂天になっていた私は、すでにいつも以下のテンションになっていた。
彼の作った料理も全く味がしなかった。結局、私たちはそのままの雰囲気で家を出た。
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_______________カランコロン
『おはようございます…。』
「おっ、やっときた…な…。」
店に入って、すでに待機していた隼斗くんと目が合う。ダメだ。
今の私は"仕事終わりに彼と食事に行く"という設定なのだ。こんな暗い顔をしていては、計画が台無しな上に、協力してくれる彼に申し訳ない。
「似合う!!」
『…へ?』
「馬子にも衣装ってことか?髪もかわいいしいい感じじゃん。上出来上出来!」
そう言って彼は、丹念込めて巻いた髪を一房すくう。
その言葉だけで私の涙腺はいとも簡単に緩むのだ。いつもの優しい『彼』に言ってほしかった言葉。あの優しい微笑みと共にほしかった言葉だ。