第11章 寛闊もの
(そうだ…私に恋人がいればいいんだ。)
数分考えた後、一つの解決案にたどり着いた。さすがに恋人がいれば彼だって誘ってこないだろう。どうしてもっと早く気づかなかったのだろう。
『…けど、絶対嘘だってバレる…よな。』
ただでさえ何に対しても鋭い彼のことだ。きっとその場しのぎの嘘なんてすぐに気づかれてしまうだろう。しかし、だからと言って諦めるわけにはいかない。
(あとは、誰かに…協力してもらうしか…!)
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「うん、いい感じ…。」
夕飯を作り終えた椎は、テーブルに料理を並べ始めた。そこで先ほどの様子がおかしい絵夢を思い出す。
いつもなら帰宅後の第一声に夕飯のおかずを聞くはずなのに、今日はそれがなかった。
なんでも一人で抱え込む彼女のことだ。やはり心配である。
(…後で、聞いてみよ…。)
何かあったのは確かだが、まずは料理が冷めないうちに夕飯を済ませることが先決だ。
そう考えた椎は、彼女の部屋の扉の前に立つ。軽く握った拳で扉を叩こうとしたその時、
『隼斗くん!私の恋人になってくださいっ…!!』
「…っ!!」
部屋の中からはっきりと彼女の声で聞こえてきた。自分の恋人になってほしいと。それも、相手は職場の先輩だ。
椎は驚きのあまり、握った拳から力が抜ける。その後も会話は続いていたが内容は頭に入ってこない。
それ以上黙って立っていられる自信がなかった椎は消えない動揺を胸にリビングへと戻った。
「…なんか…心臓痛い。なんだよ、コレ。」
エプロンの上から胸のあたりを力一杯握りしめる。呼吸がうまく出来ず、胸に鈍痛が走る。
テーブルに並ぶ色とりどりの料理の輪郭がぼやけていく。
「……こんなの、どうしたらいいんだよ…。」
床に膝をつき、ソファに顔をうずめる。目のあたりがじんわりと熱くなる。
椎はこんな自分が本当に嫌いだといつも考えている。涙もろく、頼りない。体格だって決してよくない上に、このはっきりとしない物言い。
「…けど、どうやって直せばいいか…わかんないんだよ。」
どうすればもっと強くなれるか。何をすれば頼られる男になれるか。
どこを直せば彼女は自分だけを見てくれるのか。全くわからない。