第11章 寛闊もの
『っ!?はなひてくらはい!!』
私はマサさんの手を掴み、頬から引き剥がす。人の頬を引っ張り、その顔を見て笑うとはなんとも失礼な。
「あははっ…あー、面白い。ごめんごめん、君はからかい甲斐があっていいね。そういうとこ好きだよ?」
『全然嬉しくないんですけど。』
彼には何かとつけて子ども扱いされている気がする。多少年齢差があるにしてもいいとこ兄妹くらいだ。
立派に自立して生計を立てているのに、子ども扱いされるのは納得がいかない。
『私子どもじゃないんですけど。』
「子どもとは言ってないよ。かわいいって言ってるの。」
『それを子ども扱いって言うんです!』
私は仕返しにと彼の頬に手を伸ばし、先ほどされたのと同じように頬をつねる。顔が整っている人の顔を崩すのは存外面白い。
『っぷ…あはははっ、ダメ!マサさんの顔っ…おかしいっ…!!』
笑いをこらえきれず、彼から手を離してお腹を抱える。それでも尚、彼は穏やかな笑みを浮かべている。
「はぁ、まったく。店長にそんなことする子はお仕置きです。」
_______________ペシッ
『うぁっ…。』
額を軽く手のひらで叩かれた。ほとんど痛みは無かったが、反射的に額に手をやる。
「ほら、笑顔が戻ったんならさっさと出るよ。外が騒がしくなってきた。」
『あっ!忘れてた!!』
私のことを励まそうとしてくれていた彼に胸が熱くなる。
その後、マサさんが出て行き、すぐさま隼斗くんを止めてくれたため特に大事にはならなかった。まぁそれも、毎週毎週行われる争いに従業員が慣れたおかげだろう。
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『宮瀬さん、今日はどのようになさいますか?』
「んーいつもの感じで。」
彼からの返答はわかっていたが、一応店のルールなので聞いておく。彼はいつも洗髪と毛先を整えることしかしない。
「それよりさ、その"宮瀬さん"てどうにかならないの?僕ずっと言ってるよね?」
『宮瀬さんは宮瀬さんなので。お客様はどの方もこれで固定です。』
「えー、俺と絵夢ちゃんの仲じゃーん。」
鏡の中の彼と目が合う。唇を尖らせているがなぜか絵になる。しかし、その目をすぐにそらしてシャンプー台へと移る。