第10章 愛嬌もの
カーテンの隙間から差し込む日の光が顔に当たる。その光から逃れるために布団を深くかぶろうとする。
しかし片手が何かに拘束されていて動かない。
(ん……まだ…寝たい…)
いくら力を込めても動かない左手にしぶしぶ目をやる。目が覚めたばかりで視点が定まらない。
私の瞳には、いつもより一回り大きな自分の手が映る。
『あ…。』
まだ薄暗い部屋の中、目を凝らすと目の前には穏やかな寝顔があった。
伏せられた長いまつ毛と少し小さめで形のいい鼻。そして、淡く色づいた薄い唇。この作り物めいた顔を見ながら、昨夜の記憶を辿る。
(…私、いつ布団に入ったっけ…。)
いくら考えても、彼の入浴へ着いていった後の記憶がない。
起きたばかりの頭は全く機能しない。そこでもう一度、目の前の彼に目をやる。
『…っ!椎、もしかして何もかけないで寝たの!?』
私の左手をしっかりと握りしめた彼は、冷たいフローリングの上に縮こまるように眠っている。
まだ、冬の寒さが残るこの季節にこれでは相当寒いだろう。しかし彼は、なんとも幸せそうな顔をしている。
『ごめん…椎の布団とっちゃって。寒かったよね。』
そう言って、自分にかかっていた、おそらく彼がかけてくれたであろうぬくもりを彼に返す。彼はそれを引き上げようと、私の手を離した。
「…ん。」
『ふふっ、かわいい…。』
私はそっと携帯を手に持って、レンズを彼に向ける。画面の時計に目をやると、間も無く彼が毎日起きている時間だ。
机の上にある、彼の目覚まし時計を解除してキッチンへと向かった。
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彼は、昨日のバイトの疲れが出たのか一向に起きる気配がない。
いくらバイトの始業時間が遅いからと言ってさすがにそろそろ起こさなければ、私までもが遅れてしまう。
『椎、起きて!朝だよー。』
フライパン片手にキッチンから声をかけるも、彼は微動だにしない。
目覚ましを解いたのは失敗だったか。私は仕方なく、火を止めて彼のもとへと向かう。
『おーい、朝ですよー。』
「………。」
ここまで反応がないと、逆に悲しくなってくる。肩が上下しているため、呼吸はしているようだ。
私はちょっとした悪戯心で彼の頭へと手を伸ばす。
『ほらー!椎っ起きなさい!!』
