第10章 愛嬌もの
「やっぱり…俺ソファで寝ちゃダメ…?」
『ダメ!!』
彼がソファで寝ては、私の枕元にヤツがやってきたときどうしろと言うのだ。
護衛の意味をこめての添い寝だ。しっかりしてもらわないと困る。
『ソファで寝られちゃ困るの!絶対布団で寝て!』
「…困るのは俺の方なんだけど…。」
リビングへと戻ってきた私たちは、ソファに並んで座る。まだ寝るには早いため、なんとなく音楽番組を流している。
『あっ、この曲今日お店でかかってた!』
「じゃあ…俺、風呂入るから。」
(え………。)
そう言えば、いつも私が先にお風呂に入るため、もちろん本日も彼は湯に浸かっていない。しかし、今この部屋を出て行くのは許しがたい。ひとりになるのは嫌だ。
『ま、待って!…私も…行く。』
「はぁっ!?」
彼に入浴するなというのはあまりにも理不尽だ。ならば自分がついていくしかない。
脱衣所くらいまでならついていっても良いだろう。
『私もついていくの!!』
「はぁ…。あのさ…虫くらいでそんな怖がらなくても…」
『怖がってない!嫌いなの!』
「…いっしょじゃん。」
どうしても引かない私に、彼は勝手にしろと言うように背を向ける。なんとかひとりになるのは避けられそうだ。
_______________ガラッ
「…脱ぐときくらい、廊下にいてよ。」
『ゔっ……。』
確かにここにいてはどう考えてもマナー違反だ。ここまでついてきて良いと譲歩してくれた彼に、これ以上無理強いをするわけにはいかない。
『じゅっ、10秒で脱いで。』
_______________ガラガラッ
脱衣所から廊下に出る。脱衣所のドアを背に、彼からの言葉を待つ。
無意識のうちに目を閉じる。視界が閉じられたせいで、周りの音がよく聞こえる。
「もう、いいよ。」
どうして彼の声ひとつにこんなにも安心感を覚えるのだろう。扉の曇りガラスに人影は見られない。そっと扉を横に引く。
『早く、あがって…ください。』
彼のいる浴室に向かって声をかける。
「…はいはい。」
こういうとき優しい彼はずるいと思う。私は浴室とは逆向きに腰を下ろす。
シャワーから落ちる水の音と時々漏れる彼の声。なんとなく聞いてはいけない気がして背徳感におそわれる。
(…さすがにお風呂場はまずかったかな。)