第10章 愛嬌もの
「もしかして…ちょっと太った?」
『ふっ!太ってないもん!!』
なんて失礼なことを言うんだ。女の子にセクハラまがいの行為をしたうえに、太ったなどと言いがかりをつけてくるとは。紳士の端くれにも置けないやつだ。
黙っていれば端正な顔立ちだが、今の表情はただのいたずらっ子にしか見えない。
『もういい!寝る!』
「はいよー。おやすみ。」
少し笑いを含んだ声であいさつをする彼に、睨みをきかせてから部屋へと向かう。
(太ったのって、触ってわかるものなの…?)
自分のお腹に手を当てて考える。ここ最近体重計に乗っていないため、正直なところ太っていないとは言い切れない。しかし、あのように指摘されては腹も立つだろう。
(明日の朝厳しく叱ってやる。)
_______________ガチャ
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『…え?っ…!?いやあああああああああああっ…!』
「ど、どうしたの!絵夢大丈夫?!」
私の悲鳴を聞きつけた椎が部屋まで飛んでくる。突然の恐怖で彼にしがみつく。
『い…今…そこでなんか……黒いの…動いた。』
「え……何もいないけど…。」
彼の言うとおり、今は気配を感じない。しかし、先ほどドアを開けた時には確実にいたのだ。小さな黒い影が。
『さっきはいたの!ほんとに…いたの!』
「って泣きつかれても、いないものは…退治しようがない…。」
いかにも。しかし、今夜ここでひとり夜を明かすことは何が何でも避けたい。とにかくひとりでは寝たくない。再び羽音を聞こうものならぜひとも退治して頂きたい。
『椎…今日、椎の布団で寝かせてください…。』
「は…?」
『お願いします!!』
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懇願の結果、彼の布団に入れてもらえることになった。
私が客人用の布団の存在をすっかり忘れていたせいで、椎がここに住み始めた頃はソファで眠っていたが、今はリビングに布団を敷いて寝ている。