第6章 なにもの
(……なんなの…これ。)
自分でもよくわからない感情と行動に自分自身でうろたえる。彼はただの同居人で、よく素性もわからない。
私がいつどこでなにをしようと彼には関係ない。もちろんその逆も然りだ。そう頭ではわかっていても心がうまくついていかない。
(明日は仕事だ…早く寝よ。)
彼のことを頭から振り払って寝ようとしたが、その試みは失敗に終わった。結局睡魔が限界に達したところで、彼のことを考えながらも眠りについた。
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______バンッ
「うっ……!?」
あいさつの言葉を遮るように扉が閉められる。驚きのあまり、手に力が入り、持っていた洗濯物にシワが寄る。
「…俺…なんかしちゃったかな…。」
ひとまず絵夢に恋人がいないことに椎は安堵していた。ずっと気になっていたのだ。
恋人がいる女性の家に居候しているなどと、その恋人が知ったらただでは済まないだろう。だから、彼女に恋人がいないとわかったとき、以前からの胸のつかえが少しだけ取れた気がした。
「……さっきの、絶対怒ってた…よね。」
絵夢からクリスマスパーティーの話題を振られたとき、一瞬椎は口ごもりそうになった。
しかし、恋人と過ごすから出て行けと言われる覚悟をしていた身としては、クリスマスを一人で過ごすことくらいどうということはない。
「ちょっと心配…だったけど、寂しいなんて…言えないし。わがままも言わなかったし…。」
自分の何が悪かったのか、まるで検討がつかない。しかし、普段、怒りの感情などほとんど見せない彼女が、自分と二人きりの場面で腹を立てたのだ。間違いなく原因は自分だろう。
椎は彼女の部屋へと体を向け、扉の前に立つ。うなだれる形で額と右手を扉に当て小さくため息をもらす。
しばらくその場に立ち尽くしていたが何も思いつかず、時計の針が0時を回ったところで寝床についた。
(明日…ごめんなさい、しよ。)