第6章 なにもの
(……よしっ…)
______バンッ!
いつもより重い扉を力一杯開ける。その瞬間、キッチンに立つ彼と視線が交わる。
「あのさっ…昨日______」
『ごめん、今日早く出なきゃいけないから朝ごはんいらない。』
「えっ…?いや、でも…カフェオレだけでも_____」
______バタン
(やっちゃった……)
さすがに今の態度は無かったと、途端に自己嫌悪に陥る。しかし、昨日の一件のせいで彼にどんな顔をして接すればいいのかわからないのだ。
何事もなかったかのようにいつも通り振る舞うというシミュレーションもしてみたが、途中で断念した。
(勝手に期待して、勝手に怒って……そんな後でどう顔向けすればいいのよ…)
『ごめん…椎…。』
家を出ることに考えが集中して、その後のことを考えていなかった。現在の時刻は午前6時40分。やっと東の空が白んできたところだ。
気温も低く、特に妙案も浮かんでこないためとりあえず朝食を買って、仕事場に向かうことにした。
______カランコロン…
『おはようございます…。』
予想通り、スタッフルームの椅子に座り、コーヒーを飲んでいたのはマサさんだった。
「おはよ…ってどうしたの絵夢ちゃん、こんな早くに。」
『そう言うマサさんこそ、私より早いじゃないですか。』
「俺はもう年だから早起きがクセになってんの。」
マサさんの自虐的な発言にももう慣れた。というより、彼はまだまだ若いため自虐でもなんでもない。
『マサさんは、いつもこの時間にきてるんですか?』
「まーね、特にすることはないんだけど家にいてもひとりだしね。ここにいた方が落ち着くんだ。」
マサさんがいつも早くきていることは知っていた。私もたまに早めにくることがあるが、彼が先に店にいなかったことは一度もない。
「あ、今寂しい男だと思ったでしょ。」
『うえ!?…そんなこと思ってないですよ!』
もう一つ、私が知っていることがある。それは、彼が毎朝店でなにをしているのかということだ。先ほど彼が言った理由も、おそらく本当のことだろう。しかし、彼にはもう一つ目的がある。
「んー、怪しいなぁ。今の返事は図星っぽかったぞ?」
『そんなこと…!』