第3章 お買いもの
『おーい、大丈夫でーすか?』
「…………。」
フードコートの机に突っ伏す彼の頭を軽くつつく。買い物で疲れてしまったのだろうか。確かに、あまり人混みが得意そうには見えない。
『椎、私ジュース買ってくるから休んでてね。」
そう声をかけ、私はフードコートから一番近い自販機をめざす。フードコートで飲み物を買っても良かったが、どうしても自販機がよかったのだ。
(…あ、あった。)
見つけたのは赤い自販機。そこでお目当てのもののボタンを押す。
『買えてよかった。早く戻らな_____』
「すみません、ちょっと時間いいかな?」
(………?)
私が椎のもとへ戻ろうとすると、近づいて来たのは二人組の男性である。明るい色に染め上げられた髪は少々傷んでいるように思われる。
『な…なんでしょうか?』
「そんな身構えないでよー。大丈夫、ちょっと道を教えてもらいたいだけだからさ。」
返ってきたのは彼らの見た目通りの軽そうな言葉である。少し驚いたが、道を教えるくらいならそこまで時間はかからないだろうし特に問題ない。
『…いいですよ。どこに行きたいんですか?』
「それがさ__________」
男性が口にしたのは。このショッピングモールを出てすぐのところにあるカフェだった。
『それなら、北側の出口から出て左に曲がって、少し歩くと右手に見えてきますよ。』
「んーよくわかんないなー?とりあえずさ、おねーさんも俺らといっしょに来てよ!」
『へ…?』
急に腰に手を回され、両サイドをガッチリふたりで固められた。時間があればついて行って教えてあげたいところだが、今は時間がない。
『あの…私、人を待たせてるので…』
「あー、そーゆー決まり文句でしょ?大丈夫、俺ら奢るし!」
意味がわからない。早く椎のもとへ戻りたいため、なんとかふたりの間から抜け出そうと試みるが、案の定それは無駄な努力となった。
そんな私の意思とは反対に彼らの足はどんどん出口へと向かう。
『すみません…本当に戻らなくてはいけないので、できれば道案内は他の方に…』
「だからー俺らはおねーさんがいいわけー。」
この人たちとは話が通じないというか、返答の意味がわからない。どう話せばわかってもらえるか頭を悩ませ、困り果てていたところに、透き通るような色が響いた。