第3章 お買いもの
そんな時間も束の間、気づくとすでに駅前のざわめきが私の耳に届いてきた。
駅前のショッピングモールに入ってしまえば普段必要な物は大抵揃う。私は店内の案内板の前に立ち、椎に声をかける
『椎はどういう服が好きなの?この中で好きなお店とかある?』
私の質問に彼は眉をひそめる。
「俺のはいいから絵夢の服買いなよ…そのためにきたんでしょ。」
外出の名目を裏手に取られてしまった。このままでは拉致があかないと思った私は仕方なく奥の手を使った。
『じゃあもう椎くんのことは知りません。私はひとりでお買い物するので椎くんは帰っていいですよ。』
___________ピクッ。
椎の耳がわずかに動く。なぜか椎は"敬語"と"くん付け"に過剰な反応を見せる。そして数秒間唸った後、
「下着とデニムとTシャツがあれば…あとはいらない 。店は一番安いところのが…いい。」
彼らしい返答に思わず笑みがこぼれる。彼がここまで歩み寄ってくれたのだから、あとは私がなんとかしようと意気込んで歩き出した。
_____________________________________________
「ねぇ…着れたよ…」
__________シャーッ
彼が試着室から出てくる。やはり、元がいいだけあって何を着ても似合う。
今着ているのはシンプルなデニムのパンツにトップスは柄付きのシャツにパーカーを羽織っている。
私は男性のファッションにはめっきり疎いためマネキンに着せてあったものをそのまま持ってきた。
『すごい似合ってるよ!これも買おう!!』
「も、もういいよ。さっきの店ので十分だから…ね?もう帰ろう…」
そんな彼の声も聞かずにお会計を済ませる。仕事柄、男性のファッションについては少々興味があったため勉強になった。
これだけ買えば、彼が着替えに困ることはないだろう。その足で次は、日用品を買いに別の店へと移った。