第16章 正直もの
「俺を置いていくなよ。」
(かわいい…。)
これが所謂ギャップというやつだろうか。普段、兄のようにふるまっている彼が頬を染めて拗ねているのだ。私が見入ってしまうのも仕方ないだろう。
「っていうか、お前のせいでみんなとはぐれたじゃねーか。責任とれ。」
ふいっとそっぽを向いてそんなことを言う彼にまたしても頬が緩んでしまう。
『隼人くん、すぐ行きますからちょっとだけお店の前で待っていてください!』
「いや、何か買うなら俺も付き合う…」
『いいから!』
強引に彼を店の出口へと向かわせ、私はもといた棚の前へと向かう。つぶらな瞳で見つめられると全て手にとってみたくなってしまうがそういうわけにもいかない。
数分棚の前に居座った末に、その中からいくつかストラップのついたぬいぐるみをかごに入れて会計へと向かった。
__________________________
『お待たせしました。』
「おう、んじゃみんなと合流しますか。」
私が店内でどれにしようかと唸っていた間、他の従業員らと連絡をとっていてくれたらしい。待ち合わせの場所へと私の手を引こうとする彼に制止の声をかける。
『隼人くん!』
「ん?なんか買い忘れたのか?」
『そうじゃなくて、はいコレ。』
先ほどの店の袋から小さな紙袋を取り出す。そしてそれを、不思議そうな顔をする彼に手渡す。
『付き合ってくれたお礼です。』
「いや、付き合ったも何も…」
『いいから開けてくださいっ。』
どこか腑に落ちないといった様子の彼を急かして、袋を開けさせる。中から出てきたのは、ツンとした表情をしたペンギンのぬいぐるみだ。
『これ、隼人くんに似てませんか?』
「お前っ、これのどこが!」
『うぅ、結構時間かけて選んだのに…』
自分がペンギンに似ていると言われて不満気な彼に、わざとらしく残念そうな顔を向けてみる。
「はぁ…ま、お前が選んでくれたんだしな。ありがたくもらっておくよ。」
『そうしてもらえると嬉しいです。』
「調子いいやつめ。ほら、早いとこみんなと合流すっぞ。」
『はい!』
彼が迷子にならないようにと手を取り歩き出す。少し前を歩く彼の耳が赤いのは、見て見ぬふりをした。いつもより少し早足で歩く私の手には、少し軽くなった雑貨屋の袋が握られている。
(結局、買っちゃったな。)