第16章 正直もの
『隼人くん、見てください!鮎です!塩焼きです!!』
「お前さっき、団子食べてなかったか?」
『鮎の塩焼きは別腹です。』
「胃袋いくつあるんだよ。」
私たちは現在、観光を終え、その地でも有名な土産屋通りを歩いている。特に空腹を感じているわけではないが、こういう場にくると見るもの見るものが食欲を増幅させる。
「お前、土産はいいのか?さっきから食ってばっかで何も買ってないだろ。」
その一言で、さっきまで忘れていた昨晩の出来事を思い出す。と同時に、携帯の存在が気になってしまう。
「なんでむくれんだよ。まぁ、絵夢がいいならいいけど。」
隼人くんの困ったような表情を見て、なんとか話をそらそうと周りを見渡す。
『わぁっ、隼人くんあのお店!ちょっと覗いてみたいです!』
「あ、おい急に走り出すな!」
私の目にとまったのは、可愛らしい小物が並ぶ和装雑貨屋。ちりめんをベースにした小物たちはなんとも私好みだ。
店内も落ち着いた雰囲気で、暖色系の照明がなんとなく幻想的な世界を作り出す。そんな店内、右手奥の棚にちりめんで彩られたぬいぐるみたちが並んでいた。
『このウサギ…』
(…椎に似てる。)
思わず口をついて出そうになった言葉をなんとか飲み込む。しかし、実に似ている。耳のたれ具合から、頼りなさげな目元までどこをとっても彼を連想させる。
「見ーつけた。こらっ!」
____________________________ピシッ
『いてっ…。』
「勝手に走り出すな、迷子になったらどうする。」
後ろからの気配に気づき、振り向いた瞬間、額に強烈な痛みが走る。過去にも数回くらったことがあるが、相変わらず威力が人並みでない。
『私もう迷子とかそういう年じゃありません!』
額を手で押さえつつ、涙目になっているであろう目で彼の顔を睨みつける。
「俺がだよ!俺が迷子になったらどうすんだよ!!」
『…はい?』
「土地鑑ない場所歩くの…苦手なんだよ。」
珍しく弱気な彼に出かけた涙も引っ込んでしまった。彼の新しい一面を見たようで不意に頬が緩む。
『へぇ〜じゃあ私、今度はあっちのお店見てきますね!』
「だ、だから!」
ちょっとしたからかいのつもりで、彼を置いて店を出ようと駆け出す。しかし、その企みは彼の手によってあっけなく阻まれる。