第15章 小心もの
『本当にさくちゃんはしっかりしてるというかなんというか…。』
「そんな!私なんてまだ、入りたてのひよっこですし。絵夢ちゃんにはいつもお世話になっちゃって。」
彼女はそう言うが、私が彼女をお世話した記憶はひとつもない。逆だとすれば心当たりはいくらでもあるが。
『はぁ…私の方が年上のはずなんだけどなあ……ん?』
(年上…?)
『っ!?ああああああああ!!』
「うぇっ!?どうしたんですか急に!」
『連絡!携帯!!』
旅行中いろいろありすぎて完全に忘れていた。確か今日「彼」は仕事が休みだったはずだ。いつでも連絡してこいと言っておいてこれはないと自分でも思う。
不在着信がいくつ溜まっているか想像するだけでも恐ろしい。以前、充電が切れて連絡が取れなくなった際、こっぴどく叱られたのは記憶に新しい。
『あった携帯!』
恐る恐る、しかし早急に電源を入れる。覗き見るようにして見た画面に表示されていたのはいつも通り日時を映し出したロック画面だ。
「どなたかに連絡ですか?」
『あっ…いや、やっぱりなんでも…ない。』
「ん…?」
少なくとも数十件は入っていると思われた不在着信は一件もなく、ましてやメールすらない。ここまでくると、逆に彼のことが心配になってくる。
『ごめん、ちょっと風に当たってくる!』
「えっ?絵夢ちゃん浴衣でですか!?」
さくちゃんの声を背中に受けて、私はロビーから出たところにある休憩所へと走った。さっきまで旅行のことで頭がいっぱいだったのに、今は椎のことしか考えられない。
(何も…ないよね。大丈夫だよね。)
考えれば考えるほど悪い想像が浮かぶ。ロビーへの道はこんなにも長かったかと思う程度には焦りを感じている。
____________________________ガチャ
『うぅっ…寒。』
まだ少し冷たい風を体に受けて、思わず身震いをする。うまく動かない手で彼の連絡先を探す。
(お願い、出て!)
今までの彼の経緯を思い返すと悪い予感しかしない。不安で胸がいっぱいになりながらもしっかりと携帯を握りしめる。