第15章 小心もの
『すみませんでした!!』
「いやいや、そんなの気にしないでいいよ。」
現在、午後3時。本日の宿に到着した。私は自室に荷物を置き、すぐさまマサさんの部屋を訪れた。
「電車の中でも言ったけど、あれは僕にも責任があるから。それに、エチケット袋持ってたし。ね?」
『でも、それじゃあ私の気が…。私にできることならなんでもするので、何かお詫びを!!』
「んーなんでこの子はこうも責任感が変に強いかね。」
マサさんを逆に困らせているという自覚はあるが、先ほどの件はそれとしてきちんと方をつけたい。
「なら、牛乳でもおごってもらおうかな。」
『…はい?』
「牛乳、風呂上がりの。やっぱり温泉の後はアレがないとね。」
『それだけで…いいんですか?』
思わぬ方向からの要望に、呆然とする。明日中パシリにでも使ってもらって構わないと思っていたのだけれど。
「うん、君にもらった牛乳ならさらにおいしそう。」
どういう理屈かはわからないが、マサさんがそれでいいならばいいのかもしれない。
『わ、わかりました!マサさんのお風呂上がりを心よりお待ちしております!!』
奥の部屋から同室の隼人くんが飲み物を吹くような音が聞こえたが、まあいいだろう。こうして無事(?)、列車内嘔吐事件は幕を閉じたのだった。
(マサさんあいつに何言わせてんすか!!)
(いや、特に変なこと言ってなかったでしょうに。)
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『はぁ〜お腹いっぱい幸せ…。』
「ふふふ、絵夢ちゃんいっぱい食べてましたからね。」
豪勢な夕飯を終え、入浴までの時間は部屋でのんびりすることにした。部屋は二人部屋で、私はすでに敷いてある布団に大の字に寝転がる。
同室の瀬良咲乃(せらさくの)通称さくちゃんは備え付けのガイドブックを読んでいる。歳はふたつ下だが、私より断然しっかりしているため彼女との間に年の差はあまり感じられない。
「それより、昼間のアレ。大丈夫ですか?」
『その節は大変ご迷惑おかけして…』
「いえいえ!ごめんなさい、そういうつもりじゃなくて…本当に絵夢ちゃんの体調が心配で。」
なんていい子なんだ。列車内で散々騒ぎ立てた私を心配してくれるなんて。そして、かわいい子が眉を下げて微笑むとこうも絵になるものか。