第15章 小心もの
「絵夢ちゃん、キャラメル食べる?」
『ありがとうございます!いただきます。」
宿までの列車の中、後ろの席から差し出されたキャラメルをありがたくいただく。
『あの…マサさん、これ抹茶ですか?』
「そうだよ。もしかして苦手だった?」
『えっと…その………はい。』
後ろから差し出されたため、気づくのが遅かった。封を切ったはいいが、残念ながら抹茶のお菓子は口に合わない。
しかし、すでに包装を解いたものを返すことも出来ず、そのまま捨てるわけにもいかずで手元のキャラメルは行き場を失う。
「じゃあ、僕にくれる?」
『え…?』
「もう開けちゃったんでしょ?」
通路側から顔を出したマサさんの吐息が耳にかかる。私は背もたれから軽く起き上がってから振り返る。するとマサさんは、キャラメルと私の顔を交互に見ながら口を開ける。
「はい、あーん。」
至近距離のマサさんの整った顔に思わず体が硬くなる。気恥ずかしさで顔の温度が上がる。
「あーらら、真っ赤になっちゃった。かーわいい♪」
『ま、マサさん!もういいです!!』
「あ…。」
マサさんに揶揄された私は、勢いに任せてキャラメルを口に放り込む。私も大人になったしイケるかな、なんて甘い考えは通用しなかった。口の中に抹茶独特の風味が広がる。
『ゔ…気持ち悪い、吐きそう。』
「ええっ!?ちょ、ちょっと待って。お手洗いまで我慢して!」
お昼を食べた後で列車に揺られているせいもあり、突然の吐き気におそわれる。通路を挟んだ席で爆睡していた隼人くんも周りのざわめきによって目を覚ます。
「ほら、立てる?僕につかまって。」
『す…すみません。』
「おい、どうしたんだよ?」
隼人くんの声が耳には入っていたものの返事をする余裕など私にはない。マサさんの支えを借りつつ車両後方のトイレを目指す。が…
________________________ガタンッ!!
『ま、マサさん…』
「どうした?歩くの辛いなら僕が…」
『ゔ…もう、ムリ。』
「えっ?!あっ、ちょっ…袋!!」
予想以上に遠いトイレと電車の揺れの存在で私の緊張はいともたやすく切れてしまった。最後に目にしたのは普段の彼からは想像もつかないようなマサさんの焦った顔だった。
(終わったな…これからの一泊二日。)