第15章 小心もの
『おっ…おはようございます!』
「お、やっときたな。って、どうした?そんな息切らして。」
『いや、ちょっと。』
旅行当日。アラームも旅行の準備も前日に済ませた。寝坊も寄り道もしていない。しかし現在、時計は集合時間の5分後を指している。
「マサさーん、最後の一人来ましたよ。」
人員確認していたらしい隼人くんがマサさんに声をかける。
「めずらしいね、君が最後なんて。何かあった?」
向かいの通りにあるコーヒーショップのカップを持ったマサさんが穏やかな笑みを浮かべている。咎める様子のない彼に少しばかり安堵する。
『いえ、特に何があったわけでもなくて…』
(言えない。椎のお小言に付き合わされた挙句泣きつく彼を無理やり引き剝がしてきたなんて…)
旅行についてはすでに了承していると思っていたが何が起こるかわからないものだ。
彼のことだ、こういう事態も容易に想像がついただろうに。私は、旅行のことで頭がいっぱいで彼の生態を見失っていたのだ。
「こいつ、家で寂しがり屋のウサギ飼ってるんすよ。」
『なっ!?隼人くん!!』
「だろ?」
ニタァと意地の悪そうな笑みを浮かべる彼は私に助け船を出したわけではなさそうだ。私の状況を隼人くんは察したらしい。
(エスパーか…!)
私は隼人くんに渾身の睨みをきかせる。
「ま、何はともあれ全員揃ったことだし、出発しますか。」
「はーい、んじゃ駅のホームに向かいますかね。」
二人の声に従業員らが歩み出す。こうして、スタートからつまづいた私たちの慰安旅行は始まった。