第14章 若輩もの
椎の腕の中で、椎の話を聞いているといつしか涙は乾いていた。
こういうシチュエーションでは、椎から柑橘系の香りが漂ってきそうなものだが、彼から漂ってきたのは先ほど食べたケーキの甘ったるい香り。
そんな彼をやっぱりかわいいと思ってしまい、図らずも口元に弧を描く。
『じゃあ、今までの分椎が幸せになれるように、これからは私が…ずっと椎のお誕生日祝ってあげる。』
この体勢ではお互いの顔が見えない位置にあるため、いつもより饒舌になる。
「っ…!嬉しい!!」
言うと同時に椎の体重が一気に私の方へ傾く。椎がうまく体勢を整えてくれたおかげで、二人向かい合って寝転がる形で着地した。
「ごめん、嬉しくてつい。」
目の前であまりにも幸せそうに微笑むものだから、見ているこちらまで笑顔になる。それを見た椎に髪を梳くように頭を撫でられて思わず頬が熱くなる。
『も、もう…寝る。』
どうにか顔を隠そうと椎の胸に頭を押しつける。
「んー、でも床で寝たら体…痛くなっちゃうよ?」
顔を隠したのは間違いだったようで、自分の今の体勢を考えると頬は熱を帯びる一方だ。
『別にいい…。』
「じゃあ、せめて布団…敷こうか。」
そう言って椎が起き上がる。周りを遮るものがなくなり、熱を帯びた頬が少しだけ涼しく感じる。
「あれ?顔、真っ赤。」
ふふっと小さく笑い声を漏らしながら顔を覗く椎。
『こ、これは…暑かったから!!全然照れてなんかないから!!!』
「俺、照れてるなんて一言も言ってないよ?」
しまった。今の私を客観視すると、椎に構ってほしいツンデレ以外の何者でもない。もちろん、そんなつもりは毛頭なかったのだが。
『なっ…もう部屋で寝る!おやすみ!!』
捨て台詞を吐いて自室へと駆け込む。廊下からはこちらへと向かう足音が聞こえる。
「絵夢…俺のこと、嫌いになっちゃった?」
ドアの向こうから声がする。なんだか嫌な予感がする。
「俺が、絵夢の嫌なことしたから…余計なこと言ったから…だから嫌いに______」
『なってない!好き!大好き!!私は椎がいてくれなきゃダメな…の…。ん?』
目の前にはニッという音がぴったりな満面の笑みを浮かべた椎が立っている。
「ふふふっ…俺も、絵夢がいなきゃ…困るね?」