第14章 若輩もの
「だから、今日は大人とか年上とかそんなの関係なく…絵夢も甘えていいんだよ。」
そう言って、私の頭に手を置く彼はいつもより大人びて見える。その手は髪を梳くように動く。
「っていうか、俺の方こそ…ごめんね。絵夢のこと押し倒しちゃったから。苦しかった?」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、顔を覗き込んでくる。
「ぇえっ!?な、なんで泣いてるの…?」
椎は、何かを拭うように私の頬に触れる。そこで初めて自分の頬が濡れていることに気づく。
『あれ…本当だ。なんでだろ。』
椎がしきりに涙を拭ってくれるが、私の瞳からはとめどなく涙が流れ出る。特に何かを悲しいと感じたわけではない。
__________ポスッ…
私の涙はたちどころに彼のパーカの胸元に染み込む。背中を軽くさする手に安心感を覚える。
「ごめんね…そんなに泣かないで。俺が、なんか言っちゃったんだよね…。」
ごめん、ごめんと繰り返す椎。こんなことでは年上の面目丸潰れである。しかし、涙が止まらない私は首を横に振ることしかできない。
「俺のために、いろいろ準備して…疲れちゃった?」
再び首を横に振る。準備で疲れたはずがない、むしろあの時間は幸せだった。
涙は止まらないが部屋には穏やかな時間が流れている。
「俺ね、自分の誕生日とか…特に思い入れとかなくて。だから今日も誕生日のことなんて忘れてたし。」
椎が私をなだめながら口を開く。
背中をさすっていた手が髪を軽く撫ぜる。その手はいつもより少しだけぎこちない。
「誕生日は、いつも一人だった。ケーキもプレゼントも一緒にいる人すらいない。なんか虚しくてさ。」
俺って一人なんだなぁって、そう呟きながら自嘲気味に笑う。彼の話を聞いているうちにいつの間にか涙は止まっていた。
「けど、悪くないね…誕生日…。絵夢のおかげで、今すごい幸せ。」
噛みしめるようにして言葉を紡ぐ。椎は、私を抱きしめるようにして体重をかけてくる。私は倒れないように彼のパーカにしがみつく。