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君に十進法

第14章 若輩もの




まだ心臓の音は鳴り止まない。これは先ほどの驚きのせいか、引かれている手のせいか。どちらにせよ彼のせいに変わりはない。

リビングに入ると、そっとソファへと促される。二人並んで座ると、肩に心地よい重みが加わる。視線をやると、彼の長いまつげは頬に影を落としている。

(まつげ長いのうらやましいな…)

ちょっとした羨望の念を抱いていると、スッと瞼が開かれる。

「どうかした…?重い?」

『重くないよ。大丈夫。』

顔が同じ位置にあるというのはなんだか不思議な感じがする。いつも綺麗なふたつの宝石は私より高い位置にあって、手を伸ばさなければ届かない。

「絵夢いつも大丈夫って言う…。」

『そ、そんなことないよ!椎の前だとかなり気緩んでるよ?』

椎と接している時の自分が最も素に近いはずだ。同じ高さの彼の瞳に、私はどのように映っているのだろう。

そこで私は大事なことを思い出す。

『あっ!ちょっと待ってて!!』

「ちょっ…どこ行くの!?」

椎の声を背に自室へと向かう。そこで、チェストの上に用意しておいたものを手にする。


『はい、これ。プレゼント。』

「いいの…?これ、俺がもらって…。」

『もちろん。だって椎のために選んだんだもの。」

椎の大きな目はをひときわ大きく開いて、私とプレゼントとを往復する。きれいな包装紙とリボンのかかった箱を大事そうに握りしめる。

「開けても…いい?」

私が頷くとその長い指で器用にリボンを解いていく。中身を目にした椎が嬉しそうに微笑む。

『万年筆とボールペン。椎、いつも手帳にいろいろと書き込んでいるでしょう?毎日使うものだから、手帳と一緒に持ち歩いてもらえたら嬉しいな…なんて。』

もっと私のことを思ってほしくて、どんな時も私のことを忘れてほしくなくて、椎の心に私がいる時間を1秒でも長くしたくて。

いつからこんな感情をもっていたかなんてわからないけど、こんな自分も悪くないなと思えてしまうから不思議だ。

使ってもらえるかはわからないけど、色合いが彼に似ていたためについ手にとってしまったのだ。

『白い万年筆なんて初めて見つけて…椎が使ってくれたらすごい素敵だなって思ったの。』

そう言うと彼は、一瞬切なそうに眉を寄せて持っていた箱をテーブルに置いた。

「…っ、もう無理。」


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