第14章 若輩もの
椎は大きなため息を吐き終えると私に回る腕に力を入れる。私はというと予想外の展開に頭がついていかない。
役目を終えたクラッカーの火薬の香りが鼻腔をくすぐる。
『あの、椎…お誕生日だからお祝い…』
「えっ…?」
そこで初めて部屋の雰囲気が違うことに気づく椎。周りを一通り見渡して、最後に私の手元のクラッカーに目をとめる。
「あ…俺、誕生日…?忘れてた…。」
『うん、おめでとう。びっくりさせてごめんね。』
椎は少々心配しすぎなところがある。会った当初も似たようなところはあったが、最近は妙にそういう部分が目立つ。
「うわ…なんか俺、空気台無しにしちゃった…よね。」
申し訳なさそうにうつむく。本日の主役に悲しそうな顔はさせたくない。
どうにかしなければと考え込んでいると、再び体が椎の方へと引き寄せられる。
「…すっごい嬉しい。こんなに幸せな誕生日、初めて。」
表情は見えないが、喜びが全身から伝わってくる。こういう素直なところにとても惹かれる。
『夕飯、頑張って作ったの。椎の料理には勝てる気がしないけど…味見はしたから大丈夫!』
「うん、ありがとう。幸せすぎて、今世界一崩れた顔してると思う。」
『そこは世界一幸せとか言ってよ。』
私の返しに二人で顔を合わせて笑う。最近知った、この笑顔を見るたびに独占欲なんてものが湧いてしまうのは私だけの秘密。
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無事夕飯を終え、シンクの前に立つ。椎は片付けくらい自分がすると言ったが、私が無理やりリビングへと追いやった。
「ねぇ、やっぱり手伝おうか…?」
カウンター越しに椎の声がする。
『大丈夫だから椎はゆっくりしてて!』
「んー…。」
椎は、どうしても納得できないような落ち着きのないような声を漏らす。その間にも着々と洗い物を進める。
「やっぱ寂しい…。」
『うあっ!?』
最後の一枚をすすぐというところで背後から声をかけられた。なんとか食器は落とさずに済んだが、心臓の音は速まるばかりだ。
『せ…セーフ。』
「っごめん!そこまで驚くと…思わなくて。」
そう言って私の手から食器を奪い、水ですすぐ。
「はい、おしまい。リビング…行こ?」
『うん…。』