第21章 感情
目の前に置かれたのは、ふっくらとした半熟卵のオムレツの乗ったチキンライス。
オムレツを開けば、黄色い艶やかな花がチキンライスを優しく包み込む。
見た目も匂いも最高の代物。
味も間違えなく美味しいと思う。
思うというのは、先程からそれを食している男の人から目を話せずにいるから。
サラダもスープも飲み物でさえも喉を通らない。
ただ、汚れのないスプーンを握りしめているだけ。
彼の名前は、先程聞いたばかり。
でも、その名前を呼ぶことは出来ない。
何故なら、話す事がないから。
以前、誠也君と喧嘩していた彼と何を話せと?
普通にご飯を食べているママが羨ましい。