第20章 債務者と書いてカモと読む
静かな車内。
渡瀬は音楽もかけずに車を走らせていた。
変わるのは、周りの景色だけ。
渡瀬の表情は微動だに動かない。
無表情を張り付けたままだ。
そのまま通り過ぎようとする交差点。
信号は青。
なのに人が飛び出してきた。
キィィイイ―――
寸前で止まる車。
適切な判断でかけられたブレーキによってその者は助かった。
けれど崩れるように地面に座り込む、車のライトに照らされた者。
酷く醜い男。
「支払日は明日だ。死ぬなら、生命保険に加入してからにしろ。迷惑だ。」
車を降りた渡瀬が、上から男を見下ろす。
冷たい視線を浴びる男は酷く怯えていた。
なんども言うが、彼に情などない。
「もう……どうしようもないんです。」
低く絞り出される声。
暗闇に消えていく。
「…それがパチンコ屋から出てきた奴の台詞か?
そういう嘘は聞き飽きた、とにかく明日事務所に来い。
…逃げたら、地獄まで追いかけるからな。」
そう言った渡瀬の目に、嘘の色はない。
全てが本気。
車に戻った渡瀬は、また無表情で車を走らせた。