第19章 君、金と薬に溺れていくことなかれ
「どうした?」
後ろから聞こえてくる声。
振り向けば、少々火照った頬をした亜久里が、フェイスタオル片手にジッと棗を見ている。
目の下の青紫色の隈が薬が抜けきれていないのを現しているが、亜久里は昨日よりも穏やかな顔をしていた。
「いや…帰ったんかと思って――。」
棗はそこまで言うと口をつぐんだ。
これ以上、言葉を発するのはなんだか恥ずかしく感じたから。
「……ばーか。」
亜久里はそう言うと、棗の髪を掻き乱した。
寝癖だらけの髪が更に乱れる。
「……平さん?」
いつもと違う亜久里の姿。
「心配すんな。」
そう言った亜久里の顔は、笑顔に満ちていた。