【リヴァイ】 Frozen 〜 Let It Go 〜
第4章 For the First Time
そんな、ある日のこと。
リヴァイはいつものように窓辺の椅子に座り、レオノアが庭に出てくるのを待っていた。
「リヴァイ様」
ドアをノックする音とともに聞こえる、キルシュタイン夫人の声。
リヴァイがドアを開けると、乳母は“待ってました”とばかりに素早く視線をテーブルへ向け、先ほど運んだ昼食の食器がちゃんと空になっていることを確認する。
最近は食が細い王子を心配するあまり、少しでも残そうものなら全部食べ終わるまで監視するようになっていた。
「・・・ちゃんと食べた」
「よろしい。紅茶はいかがですか?」
「・・・いらない」
すると、キルシュタイン夫人は、リヴァイの胸元を留めているリボンの結び目を直した。
「国王がお呼びです」
「父上が?」
身だしなみを整えられながら、リヴァイはちらりと窓の方に目を向けた。
レオノアが庭で遊んでいても良い頃だ。
父に会いに行ったら、今日は彼女の姿を見ずに終わってしまうかもしれない。
「リヴァイ様? どうかなされましたか」
「ううん、なんでもない」
しかし、王の命令に逆らうことは、王子ですら許されなかった。
久しぶりに出る廊下は、いつもながら静かだ。
人の通りはほとんどないのに、木製の床の上に敷かれた絨毯には塵一つ落ちていない。
この大きな城を、キルシュタイン夫人や数少ない召使達が綺麗にしてくれている証拠だろう。
「・・・・・・・・・」
リヴァイは無意識のうちに歩きながら窓枠に指を這わせていた。
それは、いつの間にかできていた癖。
長い時間を一人で過ごす王子はいつしか、部屋を自分で掃除するようになっていた。
最初は召使が綺麗にしてくれていた。
しかしある日、一人の召使が棚の上にあった“菓子の包み紙”を捨ててしまった。
それは他人には“ゴミ”でしかない。
だけどその外国の菓子は、レオノアが食べるのを我慢し、リヴァイの部屋まで持ってきてくれたものだった。
“リヴァイと一緒に食べたい”
そう言いながら、ドアと床の隙間からねじ込んできた菓子。
薄いドア板一枚を隔て、レオノアと背中合わせに食べた思い出の品だ。
捨てられたと知ったリヴァイは、怒りと悲しみで思わず召使の腕を凍らせてしまった。