【リヴァイ】 Frozen 〜 Let It Go 〜
第4章 For the First Time
アレンデール城はかつて、常に門が開き、街の人々が自由に出入りできる、美しい城だったという。
壮大な山を背に、青い海に浮かぶ古城。
港町から続く石畳の橋は重厚で、何千という人の往来を支える。
しかし、ジャンはそれだけの人間が城に入っていく光景を見たことが無かった。
「アレンデールの王様はとっくに悪魔に食い殺されて、あの城は幽霊しかいねぇんだろ? 悪さばっかりしていたらあそこから悪魔がやってくるって母ちゃんが言ってた」
そうやって母親に叱られたことを思い出したのだろう。
坊主頭のコニーが体を震わせながら言った。
すると、ふかし芋を食べていたサシャが首を傾げる。
「でも、私達と同じくらいのお姫様がいるそうですよ。ねぇ、ジャン」
「あ?」
「ジャンのお母さんは、お城で乳母をしているんですよね?」
「うば? なんだそれ」
余計なことを口走ったサシャに、ジャンは舌打ちをした。
どういう理由かは知らないが、母親が王女の乳母をしていることは言いふらさないよう、きつく言われている。
以前、城には珍しい食べ物がたくさんあるはずだと騒いでいたサシャに、“母ちゃんが乳母をしているけどそうでもないらしいぜ”と何気なく漏らしてしまったことを悔やんだ。
そうでも言わなければ、食い意地の張ったサシャのことだ。
無断で城の食糧庫に忍び込みかねない。
「お姫様ってどんな顔してるんだろうなぁ」
「毎日、美味しいものを食べているんでしょうね」
街はずれの森に住む猟師の娘サシャと、農夫の息子コニーは、ジャンと同じ学校に通っている。
三人は城下町の桟橋に腰かけ、ゆらゆらと揺れる小舟の群れを眺めていた。