第5章 松本潤の場合。
タクシーの中、私達に会話は全くない。なぜなら寝ているから、松本さんは!
…て、何期待しているんだ私。2個下のましてやバリバリのアイドルでガッツリ仕事仲間だって言っていた松本くんに、何期待してるんだ、私は!
ダメだ、プライベートはダメだ。ついつい女に戻ってしまう。
小さな寝息が聞こえる隣で、毎日夜遅くまで仕事で疲れてるのに、私と同じ量の仕事をしてくる彼を凄いと思った。
「…勝てないなあ、」
いつの間にか思っていたことを口にしてしまった。最近私はよく独り言を言う。なんだか急に歳をとった気分になると、急に右肩に重みを感じた。
隣を見ると松本くんの頭が私の肩に乗っていた。さっきまでは触れていなかった私の右手と、彼の左手が重なっている。お酒のせいか、触れた部分が熱くなる。
「……、」
ダメだ、だからプライベートはダメなんだ。
胸の奥がキュッと捕まれたような感覚に戸惑っていると、松本くんの指がゆっくりと動いた。
「……おれも…、かて…ないよ」
かすれた、眠たそうな声。触れていただけの松本くんの指が、私の手を離さなかった。