第5章 松本潤の場合。
「………、」
観念して、呼び掛けられた方へとゆっくり振り返える。あたかも気付かなかった風に。
「あ、っれ~、松本くん!きっづかなかったあ!お疲れ様~」
わ、わざとらしすぎたかな。あはは、と愛想笑いをしてみる。何やってんだろう。
「…なに、どうしたのその笑顔。」
「…い、いつもこうよ!」
「いや、いつもはこうだね。」
と、松本くんが口をへの字に曲げる。
た、確かに…何も言えません。
「あ、もしかしてこのお姉さんがさん?いつもお話は伺ってまーす!」
松本くんの隣に座る若い男の子が私を見る。
「え、なになに?松本くんが私を綺麗だって?」
松本くんを困らせようと、わざと思ってもみないことを言ってみる。なのに、
「へえ、言って欲しいの?」
と、悪戯っぽく聞き返されて、逆に私が怯んでしまった。こういう所で男性経験が出るんだと、自分の不器用さを恨んだ。
「い、いえ!間に合ってます!」
「えー、つまらない。」
お酒が入っているせいだ。松本くんの物腰がかなり柔らかいし、なんか色っぽい目付き。…そして私も仕事終わりのせいだ。そんな松本くんに一瞬だけドキッとしてしまった。…ご、ごめん、アンドリュー!
「潤がいつも言ってます。真の強い女がいるんだって。」
真の強い…?女性としてはどうなのそれ。
「それは果たして喜んでいいのかな、松本くんのお友だち。私どちらかというと、年下男子に強いとか言われたくないんだけど。可愛いとか綺麗とか褒められたいんだけど!」
「さん、そういうことは俺に言ってくれないと困るんだけど。」
「なんでですか、まつもっさん。」
「でた!まつもっさん!」
お友だちくん2人が声を揃えて松本くんを指差す。
「ちょっとお前らうっさい。なんで今偶然会うかなあ!さんタイミング悪すぎ。」
「ちょっとまた私のせい?」
「あーもうまたさん怒るー。お前らのせいじゃん~」
松本くんがテーブルにベターっと頭をつける。
ん?なんだこれ、松本くんが可愛いぞ。仕事中には見せない、年下っぽい行動。いいことか、悪いことか、新しい面を発見してしまった。…嫌いじゃ、ない。