第5章 松本潤の場合。
赤いのれんを潜ると、「っしゃいませ!」と元気なオヤジさんの声が響く。
「こんばんはー。」
「お、ちゃん!今日は…今日も1人かい!」
「…帰るよ。」
「あー!うそうそうそ!ほら、こっち!」
とカウンター席に案内される。元々路地裏のあまり知られていないような小さな店。 23時過ぎの平日ともなると、人もちらほらしかいない。 カウンターの一番端で寝ているサラリーマン、テーブル席でベロっベロに酔っぱらっている60代のおじ様達、奥の座席で盛り上がるメンズ3人組。
…………
見覚えのある顔立ちに思わず顔を背けた。敵はまだ気付いていないようだ!よっしゃ、セーフ!
「なに、ちゃん、どうしたの。」
中腰になり、鞄で顔を隠す私にオヤジさんが目を見開いた。
「や、あ、の…しー!」
人差し指を立てて、口の前に出す。
「え!?なに!?ちゃん、なに言ってるの!?」
「だからっ、しーってばっ!名前は呼ばないで!」
小声でそう言ったのに、何度も私の名前を呼ぶオヤジさん。空気をよめ、空気を!!私の苦労も甲斐なく、警戒する方から呼び掛けられる。
「…あれ、さん?」