第4章 二宮和也の場合。
「はい、お父さん。」
そう言って、お母さんは頬には涙が流れたまま、いつの間にか右手に持っていた印鑑をなんの迷いもなく押した。
「ちょっと、まって!!」
「どういうことだよ!」
私とカズが大声をあげる。
「俺たちが望んだのはそういうことじゃない!!」
「じゃあどういうことなんだ!!」
ひろちゃんがはじめて大声をあげた。
「お前たちは、何があっても後悔しないと、二人で生きていくと、そう言ったじゃないか。和也、違うのか?」
「・・・っ、おれは」
「私達はっ・・・そんな、二人の」
違う、二人の幸せを壊したかったわけじゃない、そうじゃない。
ずっと黙っていたお母さんが口を開く。
「カズ、、・・・あなた達、なにか勘違いをしているのね。」
「え・・・」
「縁を切る?そんなことさせない。私はあなた達の母親よ。あなた達の幸せを1番に望まない母親なんていないわ。私達はどんな形でもいいのよ。一緒にいられるなら。こんな素敵な子供に恵まれて、母さんの人生はもう幸せ。それなのに、あなた達のその気持ちがいけないこと?2人で苦しんで、人生それで終わり?今度はあなた達が幸せになる番よ。母さんと父さんはこんな紙切れじゃ終わらないわ。苗字が変わっても、家族は家族よ。」
「・・・バカだね、お前たちは!」
ひろちゃんが笑う。
「母さんも俺も、薄々は気づいてたよ。もしかしたら、こんな風になる時がくるんじゃないかって。だからその時は、離婚するって決めていた。お前たちの幸せの方が大切なんだ、家族の形よりも。」
「・・・父ちゃん・・・」
「・・・っふっ・・・」
私は何年間分もの涙を流した。何年間も閉じ込めていた声を出した。
お母さんが私を抱きしめて泣き、「辛かったわね、」と頭を撫でる。ひろちゃんが目頭を抑えて、「いい家族だな!」と笑う。カズが「・・・うん、」とそれに答える。
次の日、私たち家族は戸籍上、無くなった。