第1章 大野智の場合。
近付いては手を動かし、少し体を離しては全体を見て眉を潜め、また近付いては口を尖らせる。
そんな姿を見て、こんなに一生懸命になれることが私には何かあるだろうかと考えた。
「……………んー………あ?
さん、いたの?」
うん、いたよ。ずっといましたけど。
「ふふ、もうね、22時。凄いね」
「うっわ、まじで。悪い」
大野くんがバタバタと片付け始める。
「あ、いいよいいよ、そのままで!」
「へ?」
「オーナー、使わないから
大野くんが使って、 だって」
「まぁじで!ふふっ、嬉しいな」
大野くんの嬉しそうな顔を見ると、自然と口が笑った。
「うん、よかった」
「なんかさんが嬉しそう」
大野くんが私の発言に首を傾げる。
「あ、ははは。よ、よかったね?」
「ん、ありがと。今度オーナーにお礼しなきゃね」
そう言った彼が「じゃあ、一緒に帰えろっか」と。
「い、一緒に?」
「あ、なんか予定ある?」
「…な、いです」
「ん、じゃあ行こう」
柔らかい微笑みに緊張して変な汗が出た。
ばかみたい、一緒に帰るだけなのに。こんなこと 今時中学生でも動揺しない。