第4章 二宮和也の場合。
「母ちゃん、父ちゃん、」
カズが帰ってきて2日目の夜。夕飯も済んでお母さんは食器を洗い、ひろちゃんはテレビを見て笑っている。ごく普通の家庭。
カズの呼びかけにお母さんとひろちゃんが振り向く。
「あ、wiiする?負けないぜ!」
「お母さんもするー。」
母さん早くーと、ひろちゃんが腰を上げて準備をし始めると、カズの顔が曇った。
「や、違う。」
カズのいつもとは違う雰囲気に二人が顔を見合わせる。
「ちょっとそこに座ってくれない?」
ひろちゃんが「どうしたんだよ」と笑いながら言った。お母さんがまだ終わってない食器洗いを途中でやめ、ひろちゃんの横に座った。
「も、隣、来て。」
不安と、恐怖で足がすくむ。脂汗が止まらない。
「・・・?大丈夫、なの・・・?」
私の様子にお母さんが心配する。
やだやだやだやだ。怖い、逃げたい。嫌われたくない、悲しい顔をさせたくない、いや違う、軽蔑されたくない。
そんな感情ばかりが頭の中をグルグル回る。
カズが動けない私に近づいた。
「・・・、やめるなら、今だ。」
優しく触れられた指先と、小さく震える声。
カズも怖いんだ。
私はひとりじゃない。
「・・・うんん、気持ちは変わらない。」
「・・・うん、」
お母さんとひろちゃんの前に、私達は座った。
「どうしたんだ?二人して。」
ひろちゃんは今から話す内容を全く予測していない、いつもの笑顔。この笑顔を自ら無くしてしまうんだ、私は。
一息入れた後、カズが低い声で言った。
「俺、が好きなんだ。
女性として。」