第1章 魅せられて/仁王雅治
中腰状態で、そうっとドアを開ける。
様子をうかがってみると
よしっ!
誰もいない。
そのまま静かに音楽室と廊下をつなぐドアへと向かう。
ドアノブに手をかけた瞬間
「ひっ!?」
誰かに後ろから抱きつかれた
「だ…誰?」
こわくて、振り返ることができない。
背中からイヤな汗が、流れ出す。
「つれないのぉ……忘れたんか?」
その声……
私の記憶から抹消したい。
「まだ、別れてから1カ月しかたっとらんのに…」
そう
私は、コイツ仁王雅治と付き合っていたのである
でも、コイツの浮気の多さに嫌気がさして、別れた
「離してよ!」
「覗き見とは…エロイのぉ…くっくっ…」
「見てないわよっっ!」
……聞こえちゃっただけだもん。
「濡れたか?」
うっ…
そこは、ノーコメントにしてちょうだいよ
話題を変えよう
「さっきの子、彼女?」
「ん? 友達じゃよ……」
ふ~ん
相変わらずなんだね
私と付き合っている時は、指一本ふれなかったくせに
何か、ムカつく
大体、何で、今、私は、
こいつに抱きしめられているの?
「いい加減離し! ひゃんっ…」
変な声が、でちゃったじゃないのよぉ
「耳…弱いのか……」
耳タブを甘噛みされている
なんか、くすぐったいような
ムズムズする……
なんとか、無反応を装う
反応したら、絶対こいつのことだ
調子にのるに決まってる
「ふぅ~ん? 何時まで…持つかのぉ…」
えっ?
どういうこと?
「!…!!……」
唇を噛みしめてしまう