第3章 可愛い君へ//氷室夢
俺には、愛してやまない女性がいる。
アメリカでは、女性もかなりオープンだったけど、彼女はかなりの奥手らしい。
女性に苦戦したことのない俺も、今回ばかりは長期戦を強いられていた。
どうしたら喜んでくれるのか、わからないなんてカッコ悪いな…
「真奈美」
部活終了後。
マネージャーたちはボールを片付け、体育館の掃除をしていた。
一年マネージャーである真奈美に話しかける。
「…なんですか、氷室先輩」
彼女は俺に話しかけられると、いつも怪訝な顔をする。
それも気に食わない。
「今日、一緒に帰らないか?」
「いつも言ってますけど、家反対方向じゃないですか。私なんか誘わないで、方向が一緒で、もっと綺麗な先輩方と帰ってください」
真奈美はいつもこうだ。
自慢じゃないが、俺の誘いを断る女性なんて今までいなかった。
どうして、彼女はこうまでして断固と拒否をするのだろうか…。
「俺は真奈美と一緒に帰りたいんだよ。もちろん真奈美の家まで送っていくし、どうしてそんなに嫌がるんだい?」
「先輩の彼女だと勘違いされたくないんです」
俺を睨みつけながら、そう話す彼女。
「それなら、本当に彼女になればいいじゃないか」
「…そういうところが、嫌いです」
彼女は俺を一瞥し、避けるようにして片付けたボールを用具室へ運んでいった。
俺は彼女の言葉が理解できず、その場に立ち尽くしていた。
「あーぁ、振られちゃったね〜室ちん」
後ろから敦がポテトチップスを食べながら近づいてきた。
聞いてたのか。
「立ち聞きなんて趣味が悪いぞ、敦」
「別に立ち聞きしてたわけじゃないし〜。聞こえる距離で口説く室ちんが悪いし〜」
ボリボリとポテチを頬張りながら話す敦に多少のイラつきを覚えながら、「気分が悪い」と言って更衣室へ向かった。
その後を敦もついてくる。
「ね〜、なんで室ちんは真奈美ちんが気になんの?確かに小さくて可愛いけどさ〜室ちんのタイプじゃなさそうだけど」
「それは敦には関係ないだろう」