第5章 特別
やがて、癒貴はクスと笑い大翔に満面な笑みを浮かばせ優しく言う。
「大丈夫だよ、大翔。私は居なくならないよ。」
その笑みを見た大翔は、一瞬だけ目を見開いていたが、やがてふっ…と笑いを零すと、あぁ…と短く返事をするのだ。
やがて、癒貴の母…沙耶が帰って来た。
「大丈夫だったの?!吸血鬼に襲われたって!?」
帰ってきて早々に、沙耶から出た言葉がこれだ。勿論の事、癒貴は吸血鬼に襲われた事は沙耶には話してない。
まさか…と思った癒貴は、大翔に睨み付けると大翔は、悪い…というばかりの顔をしていたにも関わらず、どこか意地悪そうな表情もしていた。
その様子から癒貴は、呆れた表情で溜息を一つ漏らして沙耶に言う。
「大丈夫だよ。お母さん。大翔に助けてもらったから。」
「そ、そう?でも、やっぱり…引っ越しを…。」
沙耶の言葉に、癒貴は首を左右に振る。こんな酷い目にあっても癒貴は此処から離れたくないのだ。それが癒貴の気持ちだった。
そして、ソファーから立ち上がる大翔。その時、癒貴は微笑んで大翔に向かって言った。
「大翔!助けてくれてありがとう!!本当に!」
癒貴の微笑みに大翔の頬は僅かに赤く染めて口元を手で覆う姿になったが、すぐに表情を戻して軽く手をあげる。
「おう!また、会おうな!困った時はいつでも呼べよ!」
大翔は、癒貴にそれだけを伝えて家を出るのだった。