第3章 3話
(楓side)
家に帰ってからはベットの上で今日の事を忘れるため取り敢えずスマホで逢沢くんに愚痴をこぼしていた。
名前は伏せておいた。
ブッブー、スマホのバイブ音は仕事先からであろう私のお母さんからのメールを受信した音だった。
内容は、赤司くんにご飯を持って行ってあげて欲しいとのことだった。赤司のお母さんが病死した小5の時から今日までよくあることだった。彼の家はいつも家政婦等を何人か雇っているはずだった。このところ彼らの雇い主つまり赤司父が出張でいないため、その分使用人を減らしていたらしい。
中学生というこの時期にそんな無責任でいいのかと思うかもしれないけど実際、赤司は家に居ることもほとんどなく部活も夏の全中で練習もよりハードだ。
その上、赤司家の家政婦や使用人は皆家族がいるそうで住み込みではない。
故に赤司があの大きな家で1人になることなんて珍しくはなかった。それでも私のお母さんの気遣いで私はよく彼の家を訪れていた。
あいつはそんな孤独にもめげずあの日から私の前では泣かなかった。
彼の涙を最初に見たのは彼の母が亡くなったお葬式の後だった。
赤司「楓、目薬取って」
いつもいつも彼は冷静でいて人の事も考えられる赤司だった。けど、この日はこの世の終わりの様な顔で彼の母がいる棺をじっと見ていた。
赤司「目が乾燥してしまったのかな?目が痛くなってきた。」
そういう彼に私は急いで家から葬式場である彼の家まで往復した。
私「はい、目薬。痛いのはきっと目を開けすぎたんだよ。征くん、もう目を閉じて休んでもいいよ。」
赤司「そう、かも、しれないね。ありがとう。」
もともと目を潤ませていた彼は更に目に水分を含ませて重力に従って落ちてくるものを拭わずただぼうっと何処かを見つめていた。
私「征くん。私ね凄いおまじない知ってるよ!!」
赤司「うん、教えて。」
私「こっち向いててね。」
赤司「うん。」
唇と唇を合わせただけのキス。それが私のファーストキスだった。
何でそんな行動に至ったかはあんまり覚えていない。
多分、有名な映画の真似をしただけに違いない。
それでも、彼はそんな馬鹿な私を見て少し濡れた頬を赤らめて
赤司「ありがとう、元気でたよ。」と言った。
そのおまじないをして以来彼は泣くことを忘れた子供の様に涙を流さなかった。