第9章 福寿草
ありがとう、と彼女の瞳から涙がひとつ零れ落ちる。
そして……赤葦にはひとつ気になる事があった。
「所で……ひとつ聞いても?」
「何?」
「さっきかづきさんが影に言っていた、影が殺した人と言うのは誰です?」
「っ!」
一瞬にして彼女の表情が曇った。
「誰か俺の知ってる人が影に殺され……っ!」
話の途中、花畑に例のチャイムが響き渡った。
チャイムが鳴り止むと同時に、赤葦が山口に重なるように倒れ意識を手離した。
後に残ったのは彼女と、赤葦が意識を手離したと同時に表れた柊。
柊は砕かれたキーホルダーを拾うと、粉々になった樹脂の中から花びらだけを取り出し、彼女の手のひらにソッと置いた。
「大事な……想い出なんでしょ?
大切にしなきゃ。」
「……そうだね。
……ねぇ、柊……。」
「何?」
「柊には、想い出……何かある?」
「たくさんあるよ?
お兄ちゃんとお姉ちゃんとの大切な想い出がたくさん。」
「そっか……例え、もしその事を相手が忘れても、柊は忘れちゃダメだからね?」
「わかってる……絶対忘れない。」
柊の言葉に安心したのか、彼女は優しく花びらを両手で包み込むと、京治君をお願いねと、言葉を最後に柊の前から姿を消した。
*NEXT*
花言葉:福寿草【悲しい想い出】