第9章 福寿草
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「山口!」
倒れる山口を見るなり赤葦は全てを思い出し、慌てて駆け寄った。
抱き起こしてみれば特別怪我もなく、ちゃんと息もあるようなので、一先ず赤葦は胸を撫で下ろす。
「これはあなたの仕業ですか?」
遅れて2人の所までゆっくり歩いてきた女の子に怪訝な視線をやれば、女の子は悲しそうに黙って首を横に振る。
「私の事はどうしても思い出してくれないんだね。」
「思い出すって一体、何を……」
「それは……京治君がちゃんと自分で思い出してくれなきゃ……」
「可哀想な子だねぇ。」
「「!」」
嫌な声が赤葦と女の子の間に割って入ってきた。
ハッとして声のした方を見れば、女の子のすぐ後ろに影が見下ろすように立っている。
「お前は……」
赤葦が口を開くが、影は赤葦を無視し、目の前の女の子の顎を掬うように人差し指で軽く持ち上げ、フード越しにニタリと笑って見せる。
「可哀想にねぇ、大好きな人から完全に忘れられるなんて……所詮あなたは雑草なのよ。
あんたが咲かせたこの花畑も……そこにいる奴の為に育てたって何も思い出してはくれなかったわね。
あんたが死んでも尚愛し続けたこいつは無責任な人ね。
自分が苦しみたくないからあんたの記憶を自分の中から全て忘れるなんて。」
「……?」
「うるさい……」
「は?」
「京治君の事を知らないくせに京治君を悪く言わないで!
あなただって、あなたの勝手な都合で京治君達をこんな所に巻き込んだんじゃないの!
あなたこそ何であの人を殺さなきゃいけなかったの!」
「え……」
殺した?
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