第8章 クロッカス
まぁ、何時も私こそ守ってもらってるから別にいいんだけど……と、ブツブツ言う女性にいい加減痺れを切らした松川が、あの、と声を掛けた。
その問いかけに女性もやっとえ?と松川を見る。
「一体ここって何なんスか?
何か知ってるなら教え……!」
松川が言い切る前に突然頭を殴られたような酷い頭痛が襲い掛かり、頭を押さえた。
同様に縁下も酷い頭痛に襲われ頭を抱え、すぐに立っていられなくなりその場に倒れ込む。
そして、頭痛と同時に恐怖の始まりと言っても過言ではないチャイムが迷路全体に鳴り響き、あまりの痛さに2人は意識を手放すと同時にチャイムも鳴り止んだ。
女性は少し悲しそうな表情で膝をつき、サラリと縁下の前髪に指を滑せる。
「ありがとう。」
女性ではない、別の幼い声が背後から投げられた。
特別驚きもせず、肩越しに振り返ると後ろにはあの小さな女の子。
「珍しいね、柊が生きてる人間を助けるなんて。」
「この人達はお兄ちゃんやお姉ちゃんの大事な人達だから……」
「そっか。
確か、あの子の誕生日にプレゼントされたんだったよね。」
昔、柊に聞いた事を思い出し、聞けばうん、と柊が頷く。
「いいなぁ、守って貰えるって。」
あんた達は幸福者だよー?と、縁下の前髪に滑らせていた指を頬に移動させグリグリと軽く押し付けてやる。
「けどさ、この子達本当の事を知ったら……どうなるかな。」
「……傷付くかもしれない。
あるいは自分を責めるかもしれない……だけど、私は守る事が役目で、それがお兄ちゃんやお姉ちゃんの願いだから叶えるの。」
ごめんなさい、と謝れば女性は立ち上がりうつ向く柊をギュッと抱き締めた。
「柊はまだこんなに小さいのに頑張り屋さんだね。
辛くなったら何時でもおいで、また一緒に遊ぼう、この迷路で鬼ごっこしたりなんかしてさ。
結末がどんな形になろうとも柊が決めた事をやり通しな?」
私は何時までも信じて待ってるから……と言えば柊はコクリと頷き、抱き締められてた温もりがスッと無くなると、後には柊と気を失った縁下と松川だけが残った。
*NEXT*
花言葉:クロッカス【私を裏切らないで】