第8章 クロッカス
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影と対面しながら嫌な汗がじんわり肌に滲み出る。
単純に考えて今まで一緒に行動していたのがこの影なんだろうが、よく今まで無事だったなと思う。
そして、縁下に「あれ?」と疑問が浮かんだ。
今まで行動していた女性が影ならば、殺せるチャンスは幾らでもあったと思う。
どうしてわざわざ今姿を表して警戒心を持たせているのだろうか。
様子を伺っていたとして、最初に影にあった時は俺達を殺す気でいた。
その証拠に危うく音駒のリエーフが第1犠牲者になりかけたし、実際主将が助けなければもしかしたら1番に死んでいたかもしれない。
そんな殺意を持った状態ならその時みたくいきなり斬りかかって来てもいいと思う。
なのに、どうしてわざわざ姿を表したのか、どうにも縁下にはそれが気掛かりだった。
「これってさ、あれじゃね?
絶対絶命じゃね?」
「まぁ、そうですよね……追いかけて来たらどうします?
ここ迷路ですよ?
逃げて行き止まったら袋のネズミですよね。」
「やっべ、これ確実に死亡フラグじゃん。」
うわっ……と僅かながら仮に殺されてしまった場合を想定して顔が青ざめた。
「ひとつ……聞いていいかしら……」
「「?」」
影の言葉に2人は黙って眉を寄せた。
「あんた達は、何で確証もないのに信じるなんて軽々しく口にするの。」
「は?」
「裏切られた時に後悔するのは自分よ。」
なのにどうして簡単に信じるなんて言えるのと、影は言葉を続ける。
一体何なんだと首を傾げる2人。
つまり、この影は過去にでも何か裏切られた事でもあるのだろうか。
いや、まず人かも怪しい影の存在に過去も何もあるのかわからないが。
そして、影の言葉に一瞬耳を疑うことになる。
「あいつさえ……あいつさえいなければこんな事にはならなかった……あいつは死んでも許さない……瀬河聖夜だけは……わたしから翔君を奪ったあいつだけは!!」
影の言葉に縁下が目を丸くした。
「翔君?翔君って、まさか……寺嶋さんの事……?」
と、言う事は……私から奪ったって事はもしかしてこの影の正体は……。
1人の女生徒の笑顔が縁下の脳裏に浮かぶ。
優しそうな、可愛らしい笑顔で笑う自分の1つ上の先輩。
「縁下!!」
「!!」
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